なでしこのために

みずから問い、考える女性のためのよみもの

【ブックレビュー】『パリと生きる女たち』はどんな本?感想や著者についてを紹介します。


「フランスの、パリ」
こう聞いたら、貴女はどんなイメージを思い浮かべるだろうか?

エッフェル塔に、凱旋門などの歴史的建造物。ルーヴル美術館やオルセー美術館、ポンピドゥー・センターなど、文化色の強い施設。日本では“パリコレ”の名でおなじみの、パリ・ファッションウィーク。

有名どころでいえば、こんなところだろうか。

これらも欠かせないけれど、パリを語る上ではさらに、決して忘れてはいけない存在がいる。



それは、パリに生きる女性たち、だ。

この記事では、わたしの大好きな『パリと生きる女たち』という本を紹介する。

著者はどんな人?

この本の著者はふたり。
パリジェンヌのクローゼットを見事に表現したような服作りを特徴とするブランド「Rouje」のファウンダーであり、現代のパリジェンヌの代名詞的存在でもある、ジャンヌ・ダマス(Jeanne Damas)

そして仏版『ELLE』の元編集長で、フランスのインディペンデント・ポッドキャスト番組でもっとも多くの視聴者数を持つ「La Poudre」を設立したローレン・バスティード(Lauren Bastide)1この二人がタッグを組み、パリを生きる女性たちを次々と訪ね、話を聞いていく。

感想
不思議な没入感

この本では、パリに住む12人の女性が紹介される。彼女たちのそれぞれが、個性豊かなバックグラウンドを持つ。

この本で描かれる、彼女たちのパリでの生活は、まさにリアルな生きざまだ。それでも不思議なことに、読んでいる間は、彼女たちそれぞれについての、完璧に練り込まれたショートフィルムを鑑賞しているかのような気分になる。

それは彼女たちの人生そのものが、物語的であることからくるのだろうか。あるいはジャンヌとローレンによる、豊かさに満ち溢れ、しなやかに流れるような文章のなせる業でもあるのだろう。

静かな部屋でわたしは一人、すっと本の中に没入していく。すると、わたしもジャンヌたちと一緒に、パリに暮らす女性たちの家のドアを叩いて、快適にしつらえられたすみかにおじゃましているような、そんな心地がした。

個性を尊重する街

シューズデザイナーに、人気クラブのPR、レストランオーナー、DJ、書店主、映画監督、政治活動家…

この世界には一人として、「AさんとBさんは一緒だ」と同じようにくくれる人なんていない。そう思わせるほどに、この本に登場する12人の女性たちは自分を確立している。

それに、熱中している対象も各々違う。
仕事、アート、政治、ファッション、社会的活動、旅、文学…

自分の好きなことについて熱く語る彼女たちの言葉には、「自分たちの身を、夢中になってそこに捧げてきたのだ」という気概が滲み出ている。

パリの人口のうち、5人に1人は移民だ。2
実際にこの本で取り上げられた女性たちの中にも、フランス以外の国にルーツを持つ人々がいる。

あらゆる国から輸入された、多様な文化を包み込んできた街。多様な文化を包み込むということは、多様な人たちを包み込むということでもある。パリという街は、そういう風土の中で、個性を尊重し、めいめいが自分らしく生きられる場所に、育ってきたのではないだろうか。

パリの女性の共通項

個性があって、それぞれが違う。
それでもどこか彼女たちに、ゆるやかなつながりを感ぜずにはいられない。

例えば、服の着こなしやインテリアについて。

自分のテイストや世界観を、服の着こなしや部屋のインテリアの中に徹底的に表現する。これはパリジェンヌにとって大切な生活の流儀。パリジェンヌが自分の部屋を居心地のいい隠れ家にするために費やすエネルギーを考えたら、「インテリア」なんてことばで表現するのでは軽すぎるかもしれない。

『パリと生きる女たち』p.16から引用

また、1区のチュイルリー公園地域に住むソフィ・フォンタネルの洞察は興味深い。

パリジェンヌに関して、彼女は鋭い持論を述べた。「パリにしかいないタイプの女性というのがいるのよね。つかみどころがなくて、矛盾に満ちた、そんな女性。メイクはしていないのに、こちらの目をじっと見つめるその強い目には、アイライナーがくっきり引かれているような気がしてくる。…(中略)」

『パリと生きる女たち』p.67から引用

決して一つにくくれない鮮やかさや考え方をそれぞれが持ちながらも、それでも“パリジェンヌ”を貫く精神性のようなものが存在する。日本の、例えば東京の女性だったらどうだろう。アメリカのニューヨークは、中国の上海は…?

きっと、ここまで明瞭に女性像が語り継がれてきた集団的存在というのは、パリの女性たちだけではなかっただろうか。

印象に残った言葉

印象に残った言葉がある。

セーヌ河岸で父から受け継いだ「シェイクスピア・アンド・カンパニー」という書店を運営しているシルヴィア・ホイットマンさんの語る言葉だ。

『見知らぬ者をもてなすことを忘れるなかれ。知らぬ間に天使をもてなしているやもしれぬのだから』
このフレーズは、うちの店の天井の梁に刻んである言葉よ。これは父にとってとても大切な言葉だった。そして、私には、今世界で起こっていることを考えると、ますます大切な意味を持っている言葉に思えるの。…」

『パリと生きる女たち』p.152-153より引用

「見知らぬ者をもてなす」、その言葉はきわめて詩的でありながら、それでいてどこか人生の本質を突いているようにも聞こえる。
また、ロンドンで暮らしたこともある彼女は、こうも言う。

「ロンドンではみんな、どんな服を買おうとか、どんな車を買おうとか、そんなことばかり考えているみたいだった。パリでは、そんなこと考えないわ。ロンドンでは、一番大切なものはお金なのね。ここでは、一番大切なものは、詩なのよ」。

『パリと生きる女たち』p.152-153より引用

お金より何より、詩を大切にする生き方もあるということ。

この本に出てくるパリの女性たちは、それぞれに自分なりの哲学を持っている。それは豊かな文化に触れ、学び、たくさんの人たちと語らいながら育ててきたものなのだろう。そんな、日本に住んでいては普段出会うことのない人たちの心の中に触れられることこそが、この本をプライスレスな存在にしている。

おわりに

本を読んでいるあいだ、ページをめくる手が止まらない。この本の全体を貫くゆったりとした空気感が心地いい。このままずっと、心地よくいたい。エネルギッシュなパリの女性たちに、もっと会いたい。そんな気持ちが後押しして、厚みのある本にも関わらず、半日も経たずに読み終えてしまった。

読み終わったあとは、肩の力が少しほぐれて、心がうるおいで満たされたような気分になった。

本の購入
関連リンク
  • ジャンヌ・ダマスのInstagram(@jeannedamas
  • ジャンヌがファウンダーを務める「Rouje Paris」(rouje.com
  • ローレン・バスティードのInstagram(@laurenbastide
  • ローレンが運営するPodcast番組“La Poudre”(仏語)のInstagram(@lapoudretv
  1. 参照元:『パリと生きる女たち』著者紹介欄
  2. 参照元:Wikipedia “Demographics of Paris” 項目名…Immigrants and their children in departments of Île-de-France (Paris Region) “source : Insee, EAR 2006) Reading: 436 576 immigrants live in Paris, representing 20% of Parisians and 22.4% of immigrants in Île-de-France.

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